本ページでは、竹バイオマスエネルギー事業について、①資源としてのポテンシャル、②竹燃料特有の技術課題、③国内の主要事例、④コスト構造と事業モデル、の順に現況を報告します。エネルギー事業への参入や燃料調達の多角化を検討する事業者を読者に想定しています。

竹バイオマスの位置づけとポテンシャル

竹は、木質バイオマスと並ぶ国産バイオマス資源でありながら、エネルギー利用がほとんど進んでいない「最後の未利用資源」と呼ばれることがあります。全国約16.7万haの竹林からは、理論上、毎年膨大な量の竹が再生産されます。竹は伐採後3〜5年で再収穫が可能であり、植林・育林コストが不要という点で、林地残材など他の未利用バイオマスにはない特長を持ちます。

カーボンニュートラルの観点でも、竹の成長速度の速さはCO2固定の速さを意味します。放置竹林の整備とエネルギー利用を組み合わせれば、竹害対策と再生可能エネルギー供給を同時に実現できるため、自治体の地域脱炭素計画に竹バイオマスを位置づける例が増えています。ただし、後述する燃料特性の課題により、木質チップと同じ感覚では扱えないことが、普及の最大のハードルとなってきました。

賦存量の面では、竹林の地上部バイオマスは1haあたり数十トンから100トン超とされ、全国の竹林全体では数百万トン規模の竹が存在する計算になります。毎年の成長分だけを利用する持続的収穫を前提としても、地域の熱需要を賄うには十分なポテンシャルがあり、問題は「量があるか」ではなく「経済的に集められるか」に尽きるというのが業界の共通認識です。この点で、竹バイオマス事業の本質は発電技術ではなく地域の資源収集システムの構築にあると言えます。

竹燃料特有の技術課題——カリウム・塩素とクリンカ

竹をボイラーで燃焼させる際の最大の問題は、カリウムと塩素の含有量が木質燃料より多いことです。カリウムは燃焼時に灰の融点を下げ、溶けた灰が炉内で固着する「クリンカ」を発生させます。クリンカはボイラーの停止・損傷の原因となり、塩素は腐食性ガスとなって伝熱管の寿命を縮めます。この特性のため、竹チップは長らく「燃やせない燃料」として敬遠され、木質チップへの混焼でも混合比率を数%程度に抑える運用が一般的でした。

表1: 竹燃料と他バイオマス燃料の特性比較(概略)
項目 竹チップ 木質チップ(針葉樹) PKS(ヤシ殻)
発熱量 木質と同等水準(乾燥時) 基準 高い
カリウム・塩素 多い(クリンカ・腐食リスク) 少ない 比較的多い
調達 国内放置竹林から調達可・物流が課題 国内林地・製材残材 輸入依存・価格変動大
対応策 洗浄・乾燥前処理、専用炉、混焼率管理 通常運用で可 混焼率・灰対策

表1: 竹燃料の技術的性質の概略比較。前処理と炉の設計によりクリンカ・腐食リスクを管理するのが近年の主流です。

この課題に対し、近年は複数の克服技術が実用段階に入っています。代表的なのは、竹を破砕後に水洗・脱水してカリウム・塩素を低減する前処理技術や、竹の性質を前提に設計された専用燃焼炉、燃焼温度を制御してクリンカ生成を抑える運転技術です。2017年には山口県山陽小野田市で竹を主燃料とするバイオマス発電所が稼働し、「竹は燃やせる」ことが商用規模で実証されました。

国内の主要事例——発電から熱電併給へ

国内の代表的な取り組みとして、まず山口県山陽小野田市の竹専焼バイオマス発電所が挙げられます。竹からカリウムや塩素を低減する処理技術を組み合わせ、世界初とされる竹燃料発電を実現した事例で、周辺地域の放置竹林から燃料を調達する仕組みを構築しました。山口県は全国有数の竹林県であり、資源立地と技術が結びついた好例です。

熊本県南関町のバンブーエナジーは、竹加工工場と一体化した熱電併給(CHP)モデルで知られます。隣接する竹製品工場に電力と熱を供給し、竹材加工で生じる端材も燃料化することで、竹の入荷から製品・エネルギーまでを敷地内で循環させる構造をつくっています。発電単体ではなく「熱の売り先」を確保した設計は、竹バイオマスの事業性を大きく改善するモデルとして参照されています。

このほか、温浴施設や農業用ハウスに竹ボイラーを導入する小規模事例、竹の炭化と農業を組み合わせて熱と土壌改良材を同時に得る事例など、地域の熱需要に合わせた多様な実装が各地で試みられており、参照できる事例の層は年々厚くなっています。

一方で、化学メーカーのトクヤマが検討した竹バイオマス燃料事業が採算面の難しさを報じられるなど、大規模集中型での竹燃料利用には依然ハードルがあります。竹は嵩張るわりに軽く、収集運搬コストが距離に比例して膨らむため、大量調達を前提とする大型発電所とは相性が良くないというのが、これまでの実証で得られた重要な知見です。

制度面では、竹は再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)や市場連動型のFIP制度において未利用バイオマスに準じた扱いを受け得るものの、由来証明や証憑書類の運用が木材ほど標準化されていないのが実情です。売電を事業の軸にする場合は、燃料区分と買取価格の適用条件を計画初期に確認し、由来証明の発行体制を地域の整備団体と共同で整えることが実務上のポイントになります。

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事業フローとコスト構造

竹バイオマスエネルギー事業の基本フローは以下の通りです。各工程にコストが積み上がるため、どこまでを自社で担い、どこを地域の整備団体や運送事業者と分担するかが事業設計の焦点になります。

  1. 伐採・集材放置竹林の伐採。整備補助や地域団体との連携でコスト低減
  2. 搬出・運搬山からの搬出と工場への運搬。距離が採算を左右
  3. 破砕・チップ化移動式チッパーまたは工場での破砕・選別
  4. 前処理洗浄・乾燥によるカリウム・塩素・水分の低減
  5. 燃焼・変換専用ボイラー・ガス化炉で電力と熱に変換
  6. 供給・販売FIT/FIP売電、自家消費、隣接施設への熱供給

図1: 竹バイオマスエネルギー事業の基本フロー。前処理工程の有無が竹特有のポイントです。

竹チップ燃料コストの内訳(概念図) 竹チップ燃料コストの内訳(概念値) 伐採・集材 約40% 搬出・運搬 約30% 破砕・チップ化 約20% 前処理・その他 約10%

図2: 竹チップ燃料コストの内訳(業界ヒアリング等に基づく概念値)。人手のかかる伐採・集材と運搬で7割前後を占めるとされます。

コストの7割前後が伐採・集材と運搬に集中するため、燃料単価を下げる鍵はエネルギー技術よりもむしろ収集物流にあります。調達半径をおおむね30〜50km圏内に収める、幼竹メンマや竹材加工と収集網を共用する、森林環境譲与税による整備事業と連動させるなど、上流コストを他事業・制度と分担する工夫が、成功事例に共通するパターンです。

小規模分散・熱利用モデルの可能性

大型発電での苦戦を踏まえ、業界の関心は小規模分散型と熱利用に移りつつあります。竹ボイラーによる温浴施設・園芸ハウス・食品工場への熱供給は、発電より変換効率が高く、設備投資も小さいため、地域単位の事業として成立しやすいモデルです。また、竹を炭化してバイオ炭として農地に施用する取り組みは、土壌改良とカーボンクレジット(J-クレジット)創出を兼ねる新しい出口として注目されています。

竹ペレット・竹パウダー燃料の開発も進んでおり、既存の木質ペレットボイラーへの混焼利用や、畜産の敷料・臭気対策と組み合わせた多段利用など、エネルギーと農業をまたぐ用途開拓が続いています。竹由来新素材食品ビジネスと収集網を共有するカスケード利用の一部として熱利用を位置づける設計が、現時点では最も現実的とされています。

竹ペレット・半炭化燃料という選択肢

チップより輸送・保管性に優れる竹ペレットや、半炭化(トレファクション)による燃料化の開発も進んでいます。半炭化竹燃料は疎水性が高く粉砕性も良いため、既存ボイラーへの混焼燃料としての利用が検討されてきました。カリウム・塩素も処理過程で低減できるため、竹の弱点を熱処理で補う方向性として注目されています。ただし加工コストが上乗せされるため、燃料単価の高さを受け入れられる需要家や、灰処理コスト低減という便益を評価できるユーザーの確保が前提になります。

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事業性評価の視点

竹バイオマスエネルギー事業を評価する際は、発電規模や売電単価よりも先に、燃料調達の持続性を確認することが重要です。具体的には、調達圏内の竹林面積と所有者の協力体制、整備補助の有無、前処理を含めた燃料製造コスト、そして熱の売り先の有無です。特に熱需要家が隣接しているかどうかは、事業性を数倍単位で左右します。

リスク管理の観点では、燃料の季節変動と災害リスクへの備えが必要です。竹の伐採適期は秋冬に集中し、梅雨や台風の時期は収集が滞りがちです。数か月分の燃料在庫を確保できるヤードの整備、複数の整備団体との調達契約、木質チップとの混焼可能な設備設計といった冗長性が、稼働率を守る保険になります。また、燃焼後の竹灰はカリウムを多く含むため、肥料・融雪剤などへの有効利用の道を確保しておくと、廃棄物処理コストを収益に転換できます。

ポイント: 竹バイオマスは「大規模発電の燃料」としてではなく、「地域の熱供給+竹害対策+クレジット創出」を束ねた地域エネルギー事業として設計するのが現況での定石です。技術面ではカリウム・塩素対策の実績がある設備メーカーの選定が前提条件になります。

次ページでは、竹1本あたりの付加価値を大きく引き上げる可能性を持つ、竹由来新素材の開発動向を報告します。