本ページでは、竹資源活用ビジネスの市場環境を、①国内需給の歴史的構造、②分野別市場マップ、③世界市場の動向、④追い風となる社会潮流、の4層で報告します。数値は農林水産省の統計や民間調査に基づく概数です。

竹資源活用市場の全体像

竹資源活用市場は、単一の産業ではなく複数の異なる市場の集合体です。大きく分けると、①竹チップ・竹ペレットを燃料とするバイオマスエネルギー分野、②タケノコ・国産メンマ・竹パウダーなどの食品分野、③セルロースナノファイバーや竹繊維などの新素材分野、④竹集成材・内装材などの建材分野、⑤竹細工・生活雑貨・脱プラ日用品の消費財分野、⑥竹林を活用した観光・体験分野があります。

それぞれの市場は規模も成長段階も大きく異なりますが、共通しているのは「原料の上流が放置竹林問題とつながっている」ことです。原料コストの大半を伐採・搬出・運搬が占めるため、どの分野でも竹林整備の仕組みづくりと一体で事業を設計する必要があります。逆に言えば、整備体制を確立したプレイヤーは複数の出口市場に展開できるため、上流を押さえることが競争優位の源泉になります。

なお、竹資源活用市場は統計整備が遅れている分野でもあります。木材のような体系的な需給統計が竹には十分になく、市場規模の推計は特用林産統計、貿易統計、業界団体の公表値、市場調査会社のレポートなどを組み合わせて読み解く必要があります。本サイトで示す数値も概数であり、事業計画に用いる際は最新の一次統計の確認をお勧めします。裏を返せば、データが整備されていないこと自体が、独自に調査を行う先行者が情報優位を築ける余地を示しています。

国内竹材の需給構造——長期縮小と輸入依存

国内の竹材生産量は、長期的に大幅な縮小を続けてきました。特用林産物の統計によれば、1980年代に年間500万束規模あった竹材生産は、プラスチック製品への代替や安価な輸入竹製品の普及により、近年は100万束前後まで減少したとされます。この40年で市場がおよそ5分の1に縮んだ計算であり、放置竹林が増えた直接の背景です。

国内竹材生産量の推移(万束) 0 200 400 600 1985年 530 2000年 270 2010年 150 2020年 100 国内竹材生産量の推移(単位: 万束・概数)

図1: 国内竹材生産量の推移(特用林産基礎資料等をもとにした概数)。需要喪失の40年が放置竹林の増加と表裏一体であることを示しています。

食品分野でも輸入依存は顕著です。国内で流通するメンマの約99%は中国・台湾からの輸入品とされ、水煮タケノコも輸入品が国産を大きく上回ります。裏を返せば、国産回帰の余地が極めて大きい市場であり、実際に純国産メンマプロジェクトのような取り組みが急速に広がっています。詳細は竹の食品ビジネス最前線で報告します。

タケノコにも及ぶ輸入依存と価格環境の変化

タケノコの需給も同様の構造です。国内生産量が年間2万トン台で推移する一方、水煮などの輸入タケノコはそれを上回る規模で流通してきました。ただし近年は、中国の人件費上昇と円安によって輸入価格が上昇し、国産品との価格差が縮小する傾向にあります。輸入依存度の高い品目ほどこの価格環境の変化は国産回帰の追い風となり、国内竹林の経済的価値を押し上げる方向に働いています。メンマ・タケノコ・竹製品のいずれでも、「安い輸入品」という前提条件が崩れ始めていることが、市場の潮目を読む上で重要です。

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分野別市場マップ——6つの出口市場

竹資源の出口市場を分野別に整理すると、以下のようになります。事業化段階の成熟度と単価水準が分野ごとに大きく異なるため、参入検討時にはポートフォリオとして捉える視点が有効です。

表1: 竹資源活用の分野別市場マップ
分野 代表的な製品・サービス 主な需要ドライバー 事業化段階
エネルギー 竹チップ・竹ペレット燃料、熱電併給 カーボンニュートラル、FIT/FIP、地域熱供給 実証〜商用初期
食品 国産メンマ、タケノコ、竹パウダー、竹茶 国産志向、輸入価格上昇、地域ブランド 商用拡大期
新素材 竹由来CNF、竹繊維、竹粉複合プラスチック 脱プラスチック、EV軽量化、高機能材需要 研究開発〜商用初期
建材・内装 竹集成材、フローリング、内装パネル 木材価格変動、サステナブル建築、意匠性 商用初期〜拡大期
消費財 竹製カトラリー、歯ブラシ、竹布、竹炭製品 脱プラ日用品需要、ギフト・EC市場 商用成熟(輸入品中心)
観光・体験 竹林ライトアップ、整備体験、竹あかりイベント インバウンド、関係人口創出、企業研修 地域単位で拡大中

表1: 分野ごとに需要ドライバーと成熟度が異なるため、複数分野を組み合わせた事業設計が主流になりつつあります。

特徴的なのは、高単価な新素材分野と、量を捌けるエネルギー分野、キャッシュフローが早い食品・消費財分野を組み合わせる「カスケード利用」の考え方です。1本の竹から、稈の上質部を建材・素材に、残りをチップ・パウダーに、幼竹をメンマにと使い分けることで、原料コストを複数の売上で回収する構造がつくれます。

価格レンジの目安

参考として、各分野の価格レンジの目安を挙げます。燃料用竹チップはトンあたり数千円〜1万円程度、土壌改良・飼料用の竹パウダーはトンあたり数万円、国産メンマは加工品でキログラムあたり数千円、竹集成材は一般木材集成材より高い単価で取引されるとされ、竹由来CNFに至ってはキログラムあたり数千円以上の高付加価値品となります。同じ1本の竹でも、どの出口に振り向けるかで得られる売上が桁で変わることが、この市場の設計自由度の高さを物語っています。

世界の竹市場と成長予測

世界に目を向けると、竹市場は既に巨大な産業です。国際機関や民間調査会社の推計では、世界の竹関連市場は2023年時点で約600億ドル規模とされ、2030年には約900億ドル規模へ、年平均5〜6%程度で成長すると予測されています。中国が生産・輸出の中心で、建材、パルプ、食品、家具まで幅広い産業が確立しています。

世界の竹関連市場規模の予測(億ドル) 0 300 600 900 2023年(推計) 約600億ドル 2030年(予測) 約900億ドル 世界の竹関連市場規模(民間調査の推計・億ドル)

図2: 世界の竹関連市場規模の推計と予測(複数の民間市場調査の中央値的な水準を概数で表示)。年平均5〜6%の成長が見込まれています。

日本はこの成長市場において、原料保有国でありながら輸入国という特異な位置にあります。国内の放置竹林という「使われていない供給力」と、世界的な竹製品需要の拡大が結びつけば、輸入代替と輸出の両面で市場を取りにいく余地があります。ただし、中国の規模の経済に価格で対抗するのは難しく、品質・トレーサビリティ・地域ストーリーで差別化する戦略が現実的とされています。

海外市場の動向を国内事業に取り込む窓口としては、竹製品輸出商社経由の販路開拓、国際的な竹関連団体・見本市への参加、環境認証(FSC認証竹材など)の取得といった選択肢があります。特に欧州向けでは、森林破壊防止関連の規制強化により原料トレーサビリティの証明が求められる傾向が強まっており、放置竹林由来という明確な出自を持つ日本産竹材にとってはむしろ追い風になり得ます。

追い風となる4つの社会潮流

第一の追い風は脱プラスチックです。プラスチック資源循環促進法の施行以降、外食・ホテル業界を中心に使い捨てプラスチックの代替需要が拡大し、竹製カトラリーや竹繊維パッケージの引き合いが増えています。竹はかつてプラスチックに市場を奪われた素材ですが、いまや逆にプラスチックを代替する側に回りつつあります。

第二はカーボンニュートラルです。竹は成長が速く、単位面積あたりのCO2固定速度が高いことから、バイオマス燃料や炭化(竹炭・バイオ炭)によるカーボンクレジット創出の対象として注目されています。第三は地方創生・関係人口です。竹林整備は都市企業のCSR・チームビルディング活動と親和性が高く、企業と地域をつなぐプログラムが増えています。第四は食料安全保障と国産回帰で、輸入メンマ・輸入タケノコの価格上昇が国産品の相対的競争力を高めています。

これらの潮流は互いに連動しています。例えば、脱プラ需要で竹製品の販路が広がれば原料の竹材需要が生まれ、竹林整備が進みます。整備された美しい竹林はインバウンド観光や体験プログラムの資源となり、地域の関係人口を増やし、さらに整備の担い手を呼び込みます。単一の追い風に依存するのではなく、複数の潮流を束ねて事業の物語を設計できることが、この業界の特徴的な強みと言えます。

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参入視点で見る市場の特徴

竹資源活用市場の最大の特徴は、競合が極端に少ないことです。木質バイオマスや木材産業と比べ、竹に特化した事業者は全国でも限られており、地域単位で見れば空白地帯が大半です。一方で、原料調達が地域の人間関係と行政制度に強く依存するため、単純な資本力では参入できない「ローカル参入障壁」が存在します。

また、需要側にも変化が見られます。大手小売・外食のサステナブル調達方針、自治体のグリーン購入、企業のノベルティや什器の環境配慮化など、法人需要が竹製品市場を下支えし始めており、BtoBの継続取引を確保しやすい環境が整いつつあります。

ポイント: 市場評価の際は「全国市場の規模」よりも「調達圏内の竹林面積×整備体制×出口製品の単価」で商圏単位の事業性を積み上げる方が実態に合います。世界市場の成長は、輸出や技術ライセンスという形で中長期の上振れ要因になります。

次ページ以降では、各分野の現況を個別に掘り下げます。まずは量的なインパクトが最も大きいバイオマスエネルギー分野から報告します。